家族信託とは
家族信託(民事信託)とは、家族の中で信頼できる人に財産の管理・処分を託す制度です。 財産の所有者(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分権限を移し、 その利益を特定の人(受益者)が受け取る仕組みです。
従来の成年後見制度や遺言では対応しきれない柔軟な財産管理・承継が可能になり、 特に認知症対策や事業承継において注目を集めています。
家族信託の基本的な仕組み
信託の登場人物
委託者
財産を託す人(通常は親)
受託者
財産を管理する人(通常は子)
受益者
利益を受ける人(委託者と同じ場合が多い)
信託設定の流れ
信託契約
委託者と受託者が信託契約を締結
財産移転
委託者から受託者へ財産を移転
管理・運用
受託者が信託目的に従って財産を管理
家族信託のメリット
1. 認知症対策
資産凍結の回避
委託者が認知症になっても、受託者が継続して財産を管理できるため、 銀行預金の凍結や不動産売却の停止を回避
成年後見制度との関係
信託した財産は、信託契約に従って受託者が管理します。成年後見人が家庭裁判所の監督を受けて財産を管理する仕組みとは異なります。 ただし、信託に入れていない財産や、医療・介護・施設入所の契約など、生活や療養看護に関することは信託の対象外で、成年後見制度の利用が必要になる場合があります。
2. 財産承継の円滑化
遺言機能の代替
委託者の死亡時に、信託契約で定めた通りに財産を承継。 遺言よりも詳細で柔軟な承継設計が可能
受益者連続信託
受益者を順次指定する「受益者連続の定め」により、二次相続、三次相続を見据えた承継を定めることができます。 ただし、この定めの効力は、信託から30年を経過した後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまでです(信託法91条)。
家族信託の活用場面
不動産の管理・処分
- ・賃貸アパートの管理
- ・自宅の維持・処分
- ・空き家・空き地の活用
- ・相続時の分割対策
事業承継
- ・自社株式の管理
- ・事業用不動産の承継
- ・後継者の段階的育成
- ・議決権の適切な管理
障害者支援
- ・障害のある子への財産移転
- ・福祉型信託の活用
- ・継続的な生活支援
- ・親亡き後の対策
他制度との比較
| 項目 | 家族信託 | 成年後見制度 | 遺言 |
|---|---|---|---|
| 開始時期 | 契約時から効力発生 | 判断能力低下後 | 死亡後 |
| 柔軟性 | 高い(契約で自由に設計) | 低い(法定の制約あり) | 中程度 |
| 監督機関 | なし(信託監督人設置可能) | 家庭裁判所 | なし |
| 費用 | 初期費用のほか、継続管理の費用がかかる場合がある | 継続的な費用 | 作成時の費用のほか、遺言執行者の報酬がかかる場合がある |
| 財産処分 | 契約で定めた範囲で可能 | 原則として現状維持 | 対象外 |
家族信託設定時の注意点
税務上の取扱い
・信託設定時に贈与税が課税される場合がある
・受益者が委託者と異なる場合は、適正な対価を負担していなければ贈与税の対象(委託者の死亡によって信託の効力が生じる場合は相続税の対象)
・信託の登記に登録免許税がかかる(委託者から受託者への移転は、登録免許税がかからず、不動産取得税も原則としてかからない)
・信託の所得税は受益者が納税義務を負う
受託者の負担と責任
・善管注意義務・忠実義務を負う
・分別管理義務(固有財産との分別)
・帳簿作成・保存義務
・定期的な報告義務
信託期間と終了事由
・受益者連続の定めの効力は、信託から30年を経過した後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで(信託法91条)
・明確な信託終了事由の設定が必要
・残余財産の帰属先を明確にする
・信託終了時の手続きを事前に決めておく
家族信託の設定手順と費用
設定手順
目的の明確化
信託を設定する目的と要望の整理
信託設計
信託スキームの設計
契約締結
信託契約書の公正証書化
登記・届出
信託登記、金融機関への届出等
運用開始
信託財産の管理・運用開始
費用の目安
コンサルティング費用
信託財産の1〜3%程度
(最低30万円〜)
公正証書作成費用
5〜20万円程度
(財産額に応じて変動)
登記費用
信託の登記:不動産の価額の0.4%(土地は0.3%)
(登録免許税。土地の0.3%は令和11年3月31日までの間に受ける登記。不動産の価額は原則、固定資産課税台帳の価格)
継続管理費用
年間10〜50万円程度
(信託監督人等を設置する場合)
尾中税理士法人の家族信託サポート
総合的なコンサルティング
- ・税務面での影響分析とアドバイス
- ・他の相続対策との組み合わせ提案
- ・専門家ネットワークとの連携
設定後のフォロー
- ・信託の税務申告サポート
- ・受託者への継続的なアドバイス
- ・信託変更・終了時のサポート
- ・定期的な運用状況の確認
よくある質問
受益者が委託者と同じ場合(自益信託)は贈与税はかかりません。 しかし、受益者が委託者と異なる場合(他益信託)は、受益者が適正な対価を負担していなければ、受益権の価値に対して贈与税が課税されます。 委託者の死亡によって信託の効力が生じる場合は、贈与税ではなく相続税の課税対象です。
信託契約で後継受託者を定めておくか、信託監督人や受益者が新しい受託者を選任できるよう定めておきます。 適切な後継者がいない場合は、信託の終了も検討する必要があります。
家族信託自体に直接的な節税効果はありません。ただし、計画的な財産承継により結果的に相続税の軽減につながる場合があります。 また、成年後見制度の回避により、管理費用の削減効果は期待できます。