重要なお知らせ
相続税の税務調査は約20〜25%の確率で実施されています。適切な事前準備と専門家のサポートが重要です。
目次
1. 税務調査の概要
相続税の税務調査は、提出された相続税のご相談書の内容に疑問がある場合や、申告額が適正でない可能性がある場合に実施されます。 国税庁の統計によると、相続税のご相談件数に対する実地調査の割合は約20〜25%となっており、他の税目と比較して高い調査率となっています。
調査統計(令和3年度)
- 申告件数:約13.6万件
- 実地調査件数:約3.3万件
- 調査率:約24.2%
- 非違件数:約2.7万件
- 非違割合:約81.6%
追徴税額
- 平均追徴税額:約641万円
- 申告漏れ財産:約3,296万円
- 重加算税対象:約12.5%
- 総追徴税額:約173億円
ポイント
- 相続税の調査率は他の税目より高く、約4〜5件に1件が調査対象となります
- 調査を受けた案件の約8割で申告漏れが発見されています
- 平均して600万円以上の追徴税額が発生しています
2. 税務調査の選定基準
税務署は以下のような基準で調査対象を選定しています。これらの要因が重なると調査対象となる可能性が高くなります。
主な選定基準
1. 財産規模による選定
- 申告財産総額が2億円以上の案件
- 相続税額が1,000万円以上の案件
- 基礎控除額ギリギリでの申告
2. 申告内容による選定
- 不動産の評価額が相場より著しく低い
- 預貯金の残高が収入に比べて少ない
- 生前贈与の申告が多い
- 債務控除が多額にのぼる
3. 被相続人の属性による選定
- 医師、歯科医師、薬剤師
- 会社経営者、役員
- 不動産経営者
- 過去に税務調査を受けたことがある
4. その他の要因
- 申告書の記載に不備や矛盾がある
- 税理士が関与していない自主申告
- 期限ギリギリでの申告
- 修正申告の履歴がある
3. 税務調査の流れ
相続税の税務調査は、事前通知から調査終了まで一般的に以下のような流れで進行します。
事前通知
調査開始の1〜2週間前に税務署から電話連絡があります。
- 調査日時の調整
- 調査場所の確認(通常は被相続人の自宅)
- 必要書類の準備依頼
- 立会人の確認
調査前準備
調査当日までに必要書類を整理し、質問に対する準備を行います。
- 財産関係書類の整理
- 預金通帳の準備
- 生前贈与関係書類の確認
- 相続人への説明と打合せ
実地調査(1日目)
通常2日間で実施され、1日目は主に聞き取り調査が行われます。
- 被相続人の生活状況の確認
- 相続人の職業・収入の確認
- 財産の取得経緯の確認
- 生前贈与の有無の確認
実地調査(2日目)
2日目は書類の確認と具体的な指摘事項の説明が行われます。
- 預金通帳の詳細確認
- 不動産関係書類の確認
- 指摘事項の説明
- 今後の手続きの説明
調査結果の通知
調査終了後1〜2週間で調査結果が通知されます。
- 申告是認(問題なし)
- 修正申告の勧奨
- 更正処分の通知
4. 調査で確認される項目
税務調査では以下のような項目が重点的に確認されます。事前にこれらの項目について整理しておくことが重要です。
預貯金関係
- 名義預金の有無
- 生前引出しの用途
- 定期預金の満期取扱い
- へそくりの有無
- 家族名義口座の管理状況
- 外貨預金・仮想通貨
不動産関係
- 評価方法の妥当性
- 使用貸借の実態
- 小規模宅地特例の適用要件
- 建築中建物の評価
- 借地権・底地の評価
- 農地の評価と特例
有価証券関係
- 上場株式の評価時期
- 非上場株式の評価方法
- 投資信託の評価
- 外国株式の申告
- 従業員持株会
- 新株予約権
生前贈与関係
- 贈与の事実認定
- 贈与税申告の有無
- 相続時精算課税の適用
- 教育資金贈与
- 結婚・子育て資金贈与
- 住宅取得資金贈与
特に注意が必要な項目
- 名義預金:家族名義でも被相続人が管理していた預金は相続財産に含まれます
- 生前引出し:相続開始前の多額の引出しは使途を詳しく説明する必要があります
- 現金・貴金属:申告されていない現金や貴金属類の存在確認
5. 事前準備の重要性
税務調査で良い結果を得るためには、事前の準備が何より重要です。準備不足は追徴税額の増加につながります。
準備すべき書類
基本書類
- 相続税のご相談書の控え
- 財産評価明細書
- 戸籍謄本・除籍謄本
- 遺産分割協議書
- 印鑑証明書
金融関係書類
- 預金通帳(過去5年分)
- 残高証明書
- 取引明細書
- 定期預金証書
- 借入金契約書
不動産関係書類
- 登記簿謄本
- 固定資産評価証明書
- 測量図・公図
- 賃貸借契約書
- 建築確認申請書
その他重要書類
- 保険証券・支払通知書
- 有価証券明細
- 贈与契約書
- 医療費領収書
- 葬儀費用領収書
準備のコツ
- 申告時の資料をファイリングして保管しておく
- 生前贈与の記録を時系列で整理しておく
- 相続人全員で情報を共有しておく
- 税理士との打合せを事前に十分行う
6. 調査当日の対応方法
税務調査当日の対応によって調査の進行や結果が大きく左右されます。以下のポイントを心がけましょう。
基本的な対応姿勢
誠実かつ協力的な態度で対応
調査官に対して誠実で協力的な態度を示すことが重要です。敵対的な態度は調査を長期化させる可能性があります。
質問には正確に答える
分からないことは「分からない」と正直に答える。推測や憶測での回答は避けましょう。
余計な発言は控える
質問されていないことまで話す必要はありません。簡潔で正確な回答を心がけましょう。
税理士との連携を密にする
税理士に立ち会ってもらい、回答に迷った場合は税理士に相談しながら対応します。
具体的な対応例
| 調査官の質問 | 適切な回答例 | 避けるべき回答例 |
|---|---|---|
| 「生前に多額の現金を引き出していますが、何に使いましたか?」 | 「医療費と生活費に使いました。領収書があります」 | 「よく覚えていません」「たぶん生活費だと思います」 |
| 「この預金は誰が管理していましたか?」 | 「父が通帳と印鑑を管理していました」 | 「家族みんなで使っていました」 |
| 「贈与の事実はありませんか?」 | 「○年に住宅資金として○○万円の贈与を受けました」 | 「贈与はないと思います」 |
注意すべきポイント
- 調査官の質問の意図を理解してから回答する
- 書類の提示を求められたら速やかに提出する
- 相続人間で回答に矛盾が生じないよう事前に打合せする
- 録音や写真撮影は調査官の許可を得てから行う
7. よくある指摘事項と対策
税務調査でよく指摘される事項を理解し、事前に対策を講じることで追徴税額を最小限に抑えることができます。
名義預金の認定
よくある指摘内容
- 家族名義の預金が被相続人の財産として認定される
- 子や孫の預金口座の管理を被相続人が行っていた
- 通帳や印鑑を被相続人が保管していた
対策方法
- 贈与契約書を作成し、贈与の事実を明確にする
- 贈与税の申告を適切に行う
- 贈与を受けた本人が通帳・印鑑を管理する
- 贈与後は本人が自由に使用できる状態にする
生前引出しの使途不明
よくある指摘内容
- 相続開始前の多額の現金引出しの使途が不明
- 引き出した現金が相続財産として申告されていない
- 医療費や生活費としては金額が過大
対策方法
- 引出し時の用途を記録に残す
- 領収書や支払証明書を保管する
- 大きな出費は事前に相続人と相談する
- 現金での支払いを避け、振込等の記録を残す
不動産評価の過少申告
よくある指摘内容
- 小規模宅地特例の適用要件を満たしていない
- 貸付事業用宅地の認定要件不備
- 建築中建物の進捗度評価が不適切
対策方法
- 特例適用の要件を事前に十分確認する
- 使用貸借の実態を書面で明確にする
- 建築工事の進捗状況を写真等で記録する
- 不動産鑑定士の意見書を取得する
債務控除の否認
よくある指摘内容
- 相続人に対する債務の実態が不明確
- 借入金の使途が事業や投資と関係ない
- 債務の弁済能力に疑問がある
対策方法
- 借入契約書を適切に作成する
- 金利の支払実績を記録に残す
- 借入金の使途を明確に説明できるようにする
- 返済計画を具体的に作成する
8. 修正申告と追徴税額
税務調査で申告漏れが発見された場合、修正申告を行い追徴税額を納付する必要があります。
追徴税額の構成
追徴税額 = 本税 + 延滞税 + 加算税
本税
申告漏れ財産に対する相続税額
延滞税
納期限から納付までの利息
加算税
ペナルティとしての附帯税
加算税の種類と税率
| 加算税の種類 | 適用条件 | 税率 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 修正申告により税額が増加 | 10%(期限内申告税額超過分は15%) |
| 無申告加算税 | 申告期限内に申告をしていない | 15%(300万円超過分は20%) |
| 重加算税 | 仮装・隠蔽があった場合 | 35%(無申告の場合は40%) |
計算例
ケーススタディ
前提条件:
- 申告漏れ財産:3,000万円
- 追加相続税額:900万円
- 調査終了日:申告期限から1年後
- 修正申告での対応(重加算税は適用されない)
本税:900万円
延滞税:約45万円(年7.3%で1年間)
過少申告加算税:90万円(900万円×10%)
合計:1,035万円
節税のポイント
- 調査前に自主的に修正申告すると加算税が軽減されます
- 正当な理由がある場合は加算税が免除される場合があります
- 分割納付や延納制度を活用することも可能です
9. 税務調査を回避するために
完全に税務調査を回避することは困難ですが、適切な申告を行うことで調査リスクを軽減することは可能です。
申告時のポイント
正確な財産評価
不動産評価は複数の方法で確認し、極端に低い評価は避ける
詳細な資料添付
特例適用の根拠資料や評価の詳細を申告書に添付する
専門家の関与
経験豊富な税理士に依頼し、適切な申告を行う
期限内申告
申告期限に余裕を持って提出し、内容を十分検討する
生前対策の重要性
記録の整備
- 贈与契約書の作成
- 資金移動の記録保管
- 財産の取得経緯の記録
- 生活費等の支出記録
適切な贈与
- 贈与税申告の実施
- 贈与の実効性確保
- 計画的な財産移転
- 特例制度の活用
成功の秘訣
- 透明性の高い財産管理を心がける
- 家族間での財産に関する情報共有
- 定期的な税理士との相談
- 相続対策の継続的な見直し
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