重要なお知らせ
相続税の実地調査は、令和6事務年度に9,512件行われました。国税庁は、個々の申告が調査される確率を公表していません。適切な事前準備と専門家のサポートが重要です。
目次
1. 税務調査の概要
相続税の税務調査は、提出された相続税申告書の内容に疑問がある場合や、申告額が適正でない可能性がある場合に実施されます。 国税庁の令和6事務年度の公表資料では、実地調査9,512件、簡易な接触21,969件です。調査は過年度の申告も対象となるため、その年の申告件数で割って個々の申告の調査確率とはできません。
調査統計(令和6事務年度)
- 相続税額のある申告書の提出に係る被相続人数(令和6年分):166,730人
- 実地調査件数:9,512件
- 申告漏れ等の非違件数:7,826件
- 非違割合:82.3%
追徴税額(令和6事務年度)
- 実地調査1件当たりの追徴税額:867万円
- 実地調査1件当たりの申告漏れ課税価格:3,093万円
- 重加算税賦課割合(賦課件数÷非違件数):13.6%
- 追徴税額合計(本税・加算税):824億円
ポイント
- 公表件数は実地調査の総数であり、個々の申告が調査される確率を示すものではありません
- 調査を受けた案件の8割以上で申告漏れが発見されています
- 実地調査1件当たりの追徴税額は、令和6事務年度で867万円でした
2. 税務調査の選定基準
税務署は以下のような基準で調査対象を選定しています。これらの要因が重なると調査対象となる可能性が高くなります。
1. 財産規模による選定
- 申告財産総額が2億円以上の案件
- 相続税額が1,000万円以上の案件
- 基礎控除額ギリギリでの申告
2. 申告内容による選定
- 不動産の評価額が相場より著しく低い
- 預貯金の残高が収入に比べて少ない
- 生前贈与の申告が多い
- 債務控除が多額にのぼる
3. 被相続人の属性による選定
- 医師、歯科医師、薬剤師
- 会社経営者、役員
- 不動産経営者
- 過去に税務調査を受けたことがある
4. その他の要因
- 申告書の記載に不備や矛盾がある
- 税理士が関与していない自主申告
- 期限ギリギリでの申告
- 修正申告の履歴がある
3. 税務調査の流れ
相続税の税務調査は、事前通知から調査終了まで一般的に以下のような流れで進行します。
事前通知
調査開始の1〜2週間前に税務署から電話連絡があります。ただし、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合は、事前通知が行われないこともあります。
- 調査日時の調整
- 調査場所の確認(通常は被相続人の自宅)
- 調査の目的
- 調査の対象となる税目と期間
- 必要書類の準備依頼
調査前準備
調査当日までに必要書類を整理し、質問に対する準備を行います。
- 財産関係書類の整理
- 預金通帳の準備
- 生前贈与関係書類の確認
- 相続人への説明と打合せ
実地調査(1日目)
通常2日間で実施され、1日目は主に聞き取り調査が行われます。
- 被相続人の生活状況の確認
- 相続人の職業・収入の確認
- 財産の取得経緯の確認
- 生前贈与の有無の確認
実地調査(2日目)
2日目は書類の確認と具体的な指摘事項の説明が行われます。
- 預金通帳の詳細確認
- 不動産関係書類の確認
- 指摘事項の説明
- 今後の手続きの説明
調査結果の通知・説明
調査終了後1〜2週間で調査結果が通知または説明されます。更正や決定をすべきと認められる場合の説明は、原則として口頭で行われます。
- 申告是認(問題なし)
- 修正申告の勧奨(応じるかどうかは任意です。修正申告をすると不服申立てはできませんが、更正の請求はできます)
- 更正処分の通知(勧奨に応じない場合など)
4. 調査で確認される項目
税務調査では以下のような項目が重点的に確認されます。事前にこれらの項目について整理しておくことが重要です。
預貯金関係
- 名義預金の有無
- 生前引出しの用途
- 定期預金の満期取扱い
- へそくりの有無
- 家族名義口座の管理状況
- 外貨預金・仮想通貨
不動産関係
- 評価方法の妥当性
- 使用貸借の実態
- 小規模宅地特例の適用要件
- 建築中建物の評価
- 借地権・底地の評価
- 農地の評価と特例
有価証券関係
- 上場株式の評価時期
- 非上場株式の評価方法
- 投資信託の評価
- 外国株式の申告
- 従業員持株会
- 新株予約権
生前贈与関係
- 贈与の事実認定
- 贈与税申告の有無
- 相続時精算課税の適用
- 教育資金贈与
- 結婚・子育て資金贈与
- 住宅取得資金贈与
特に注意が必要な項目
- 名義預金:家族名義の預金でも、原資の出どころ、管理や運用の状況、贈与の事実の有無などを総合して被相続人の財産と判断されたものは、相続財産に含まれます
- 生前引出し:相続開始前の多額の引出しは使途を詳しく説明する必要があります
- 現金・貴金属:申告されていない現金や貴金属類の存在確認
5. 事前準備の重要性
税務調査で良い結果を得るためには、事前の準備が何より重要です。準備不足は追徴税額の増加につながります。
基本書類
- 相続税申告書の控え
- 財産評価明細書
- 戸籍謄本・除籍謄本
- 遺産分割協議書
- 印鑑証明書
金融関係書類
- 預金通帳(過去5年分)
- 残高証明書
- 取引明細書
- 定期預金証書
- 借入金契約書
不動産関係書類
- 登記簿謄本
- 固定資産評価証明書
- 測量図・公図
- 賃貸借契約書
- 建築確認申請書
その他重要書類
- 保険証券・支払通知書
- 有価証券明細
- 贈与契約書
- 医療費領収書
- 葬儀費用領収書
準備のコツ
- 申告時の資料をファイリングして保管しておく
- 生前贈与の記録を時系列で整理しておく
- 相続人全員で情報を共有しておく
- 税理士との打合せを事前に十分行う
6. 調査当日の対応方法
税務調査当日の対応によって調査の進行や結果が大きく左右されます。以下のポイントを心がけましょう。
誠実かつ協力的な態度で対応
調査官に対して誠実で協力的な態度を示すことが重要です。敵対的な態度は調査を長期化させる可能性があります。
質問には正確に答える
分からないことは「分からない」と正直に答える。推測や憶測での回答は避けましょう。
余計な発言は控える
質問されていないことまで話す必要はありません。簡潔で正確な回答を心がけましょう。
税理士との連携を密にする
税理士に立ち会ってもらい、回答に迷った場合は税理士に相談しながら対応します。
| 調査官の質問 | 適切な回答例 | 避けるべき回答例 |
|---|---|---|
| 「生前に多額の現金を引き出していますが、何に使いましたか?」 | 「医療費と生活費に使いました。領収書があります」 | 「よく覚えていません」「たぶん生活費だと思います」 |
| 「この預金は誰が管理していましたか?」 | 「父が通帳と印鑑を管理していました」 | 「家族みんなで使っていました」 |
| 「贈与の事実はありませんか?」 | 「○年に住宅資金として○○万円の贈与を受けました」 | 「贈与はないと思います」 |
注意すべきポイント
- 調査官の質問の意図を理解してから回答する
- 書類の提示を求められたら速やかに提出する
- 相続人間で回答に矛盾が生じないよう事前に打合せする
- 録音や写真撮影は調査官の許可を得てから行う
7. よくある指摘事項と対策
税務調査でよく指摘される事項を理解し、事前に対策を講じることで追徴税額を最小限に抑えることができます。
名義預金の認定
よくある指摘内容
- 家族名義の預金が被相続人の財産として認定される
- 子や孫の預金口座の管理を被相続人が行っていた
- 通帳や印鑑を被相続人が保管していた
対策方法
- 贈与契約書を作成し、贈与の事実を明確にする
- 贈与税の申告を適切に行う
- 贈与を受けた本人が通帳・印鑑を管理する
- 贈与後は本人が自由に使用できる状態にする
生前引出しの使途不明
よくある指摘内容
- 相続開始前の多額の現金引出しの使途が不明
- 引き出した現金が相続財産として申告されていない
- 医療費や生活費としては金額が過大
対策方法
- 引出し時の用途を記録に残す
- 領収書や支払証明書を保管する
- 大きな出費は事前に相続人と相談する
- 現金での支払いを避け、振込等の記録を残す
不動産評価の過少申告
よくある指摘内容
- 小規模宅地特例の適用要件を満たしていない
- 貸付事業用宅地の認定要件不備
- 建築中建物の進捗度評価が不適切
対策方法
- 特例適用の要件を事前に十分確認する
- 使用貸借の実態を書面で明確にする
- 建築工事の進捗状況を写真等で記録する
- 不動産鑑定士の意見書を取得する
債務控除の否認
よくある指摘内容
- 相続人に対する債務の実態が不明確
- 借入金の使途が事業や投資と関係ない
- 債務の弁済能力に疑問がある
対策方法
- 借入契約書を適切に作成する
- 金利の支払実績を記録に残す
- 借入金の使途を明確に説明できるようにする
- 返済計画を具体的に作成する
8. 修正申告と追徴税額
税務調査で申告漏れが発見された場合は、修正申告をするか、更正の処分を受けるかのどちらかで、追徴税額を納付することになります。修正申告に応じるかどうかは任意ですが、修正申告をすると不服申立てはできません(更正の請求はできます)。
追徴税額 = 本税 + 延滞税 + 加算税
本税
申告漏れ財産に対する相続税額
延滞税
納期限から納付までの利息
加算税
ペナルティとしての附帯税
| 加算税の種類 | 適用条件 | 税率 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 修正申告により税額が増加 | 10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%) |
| 無申告加算税 | 申告期限内に申告をしていない | 15%(50万円を超える部分は20%。法定申告期限が令和6年1月1日以後の場合は、300万円を超える部分は30%) |
| 重加算税 | 仮装・隠蔽があった場合 | 35%(無申告の場合は40%)。過去5年以内に同じ税目で無申告加算税や重加算税を課されたことがあるなど、一定の場合は10%が加重されます |
調査の事前通知の前に自主的に修正申告をした場合、過少申告加算税は課されません。期限後申告の場合、無申告加算税は5%です。事前通知の後でも、調査による更正や決定を予知する前の申告であれば、過少申告加算税は5%、無申告加算税は10%が基本の税率になります(いずれも、一定額を超える部分は税率が上がります)。
ケーススタディ
前提条件:
- 申告漏れ財産:3,000万円
- 追加相続税額:900万円
- 当初の申告税額(期限内申告税額):1,000万円
- 調査終了日:申告期限から1年後
- 調査での指摘を受けて修正申告書を提出し、同日に納付(重加算税は適用されない)
本税:900万円
延滞税:約25.2万円(全期間に令和8年の低い方の割合・年2.8%が適用される365日間と仮定。実際は対象期間・年ごとの割合等により計算)
過少申告加算税:90万円(900万円×10%)
合計:約1,015.2万円
節税のポイント
- 調査の事前通知の前に自主的に修正申告をすると、過少申告加算税は課されません。事前通知の後でも、調査による更正を予知する前であれば5%が基本の税率になります
- 正当な理由がある場合は加算税が免除される場合があります
- 分割納付や延納制度を活用できる場合があります(延納は、金銭で納付することが困難な事由があるなどの要件を満たし、担保を提供して申請します。利子税がかかり、修正申告の場合の申請期限は申告書を提出する日です)
9. 税務調査を回避するために
完全に税務調査を回避することは困難ですが、適切な申告を行うことで調査リスクを軽減することは可能です。
正確な財産評価
不動産評価は複数の方法で確認し、極端に低い評価は避ける
詳細な資料添付
特例適用の根拠資料や評価の詳細を申告書に添付する
専門家の関与
経験豊富な税理士に依頼し、適切な申告を行う
期限内申告
申告期限に余裕を持って提出し、内容を十分検討する
記録の整備
- 贈与契約書の作成
- 資金移動の記録保管
- 財産の取得経緯の記録
- 生活費等の支出記録
適切な贈与
- 贈与税申告の実施
- 贈与の実効性確保
- 計画的な財産移転
- 特例制度の活用